宮崎誉子がガーリッシュな文体を使って描く、実にかわいくない少女達の短編集です。主人公の少女達は、会話の語尾には必ずハートマークか小さな母音の平仮名を付けるのが基本で、いつも何か不機嫌。それでも、社会がどれだけ自分に対して無関心なのかは分かっているし、きれいなマニキュアを塗ってもらっただけで、ブルーな気分が吹き飛んでしまうような単純さが逞しいのだ。
「チョコレート工場の娘(不登校篇)」は、学校で担任の教師に「チョコレート工場の娘はチョコくせえなぁ」とコケにされたのをきっかけに不登校になった少女、ルリの話。父親に訳を行ったら、学校には行かない代わりに無給で工場で働く約束をさせられた。
ティム・バートンの「チャーリーとチョコレート工場」が現実の工場とは似ても似つかないものだっていうのは誰だってわかることだけど、ルリを待っていたのは紛れもない現実のチョコレート製造ライン。「退屈のあまり溺死体になるかと思」う「やりがいのひとカケラもない」単調な仕事である。
ある日は賞味期限が正確に印字されているかを必死で点検したり、ある日はダンボールを必死で作ったり。ベルトコンベアーは休んじゃくれない。それにあわせて、ひたすら手を動かすのだ。
社長の娘が無給で必死に働いていれば、同じ労働者の中にはそれが面白くないのも出てくる。時には変な嫌がらせにあったり、悪口を言われたりしながらも、ルリは、たくましく単調な作業の中に面白みを想像力で付け加えながら仕事を続けます。
子供の頃は、なんで毎日学校に行かなくてはならないのか疑問だった。でも、大人になったら、学校よりもはるかにつまらない場所に通わなくてはいけなくなるのだ。ルリは経営者の娘を自覚しながら、幼いながらも真面目に仕事に向き合って、決して楽をせず、ごく普通の労働者のように、夜には疲れた体を癒し、休日には同僚とドライブを楽しんだりして過ごすのでした。
この本は、妙に凝った装丁も気になりました。表紙の神経質っぽい不機嫌な少女のイラストも気に入ってます。
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