小松左京賞を受賞作家、上田早夕里のグルメ・ミステリー「ショコラティエの勲章」は、上生菓子を扱う和菓子屋「福桜堂」の娘絢部あかりと近所の人気ショコラトリー「ショコラ・ド・ルイ」のシェフ長峰和輝が、日常のちょっとした謎を解き明かしていくミステリー連作集です。
周りにいる人物の、主人公にとってちょっと理解できない行動をショコラティエが与えるヒントを元に解明していくという話なので、ミステリーのと言うには些か些細過ぎる事件を描いています。ですから、謎よりも当然スイーツに話の中心があるわけで、読んでいて実においしそうなイメージが広がります。作者はそうとうの甘物好きなんだなあと思わずにいられません。
読み進めていくうちに長峯シェフの作品にますます心が惹かれます。
長峯シェフが作ったケーキ嫌いの洋菓子屋の娘に作ったクリスマスケーキは、本物のバターで作ったバタークリームを挟み込んだジュノワーズ生地のケーキ。1300円もするらしい「ショコラ・ド・ルイ」のチョコレートパフェはアイスクリームの原料やカカオに凝っています。クレーム・アングレーズには国産の新鮮な牛乳と卵を使っていて、バニラビーンスはタヒチ産の中でも特に香りの強いものを選び、チョコレートはヴァローナ社製のノワールをベースにニホンミツバチの蜂蜜で甘さを調整しているというもの。ブランデーをほんの少し香りづけに使っているとか。
おいしさでランキングを作ったらトップレベルの小説です。
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