幸田文の四十四年の執筆生活で発表された全作品を収録したものの第三巻に、「チョコレート」という短編作品がありました。1952年の作品で、旧仮名遣いのたおやかな雰囲気で綴られています。
貸し別荘に滞在する老夫婦の女中の話。
その幼さ、活発さに加えて愛嬌があり、貸し別荘の母屋である旅館の女中さんともすぐに馴染み、かわいがられるようになるが、その頃から旅館客の持ち物が紛失する事件が起こるようになる。
おかみさんは娘を問い詰め、娘は初めは呆れる風、次第に頑固に黙りとおし、最後は激しく泣くのでしたが、結局は娘の荷物を調べることになります。
娘の甘ったるくて弱い心とおかみさんの娘の心を見ぬく厳しい視線が対比されています。
原稿用紙で6、7枚の長さで語られる、後味の悪い話でした。
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