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冨士本由紀;圏外同士

この小説は、どんよりと暗い。
まるで雨の日の部屋。

ファッションデザイナー志望の乃絵と、彼女を愛人にしたいと思っている定年間際の雇われ社長の蕪木、二人の憂鬱がこの本のじめっとした暗さの原因です。

蕪木は家族からも見放され、出世街道からすっかり遠ざかり、部下達の態度も冷ややかで、自分に話しかける人はいない。つまり、自身を取り巻く人々から遠く取り残された「圏外」にいる人です。そして乃絵もファッションデザイナーになるという夢を追うために、お金に困窮して蕪木の会社に就職するが、ブルーカラーの生活に身をゆだねないので周囲と孤立して「圏外」にいる。片や望まず、片や望んで「圏外」にいる二人が対照的です。

会社の仕事に慣れて乃絵が夢を忘れそうになっていた時に、会社帰りの商店街でお買い得な苺のパックを見つけて喜んだ後、だたそれだけで喜んでいる自分を見出して自分の置かれている状態に絶望するシーンがあります。

「店の明かりに赤い宝石のように輝くたった一パックのイチゴ。ビタミンC。
 他に、希望につながるものを何一つ思い浮かべられなかったからだ。
 たとえ自分のやりたいことをやれなくても、精神だけは自由の筈だった。
 しかし、そうはいかなかった」

泣けます。

ところで、あなたは「圏外」に不安を感じますか?
コトノハをみたら、意外とみんなへッチャラでした。ちなみに私のケータイはウ○ル○ムなので地下に入るとまず圏外です。

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