アントニイ・バークリー著「毒入りチョコレート事件(原題:The Poisoned Chocolate Case)」は、ただの推理小説ではありません。
探偵小説にありがちな探偵のカッコイイ立ち回りや真犯人とのハラハラする駆け引きはないし、あっと驚くような犯人の告発もありません。物語は6人の犯罪研究家がプレゼンする形で淡々と進むため、ともすれば眠くなります。それでも推理小説ファンに名高いのは、これが実験小説としてとてもよく出来ているものだからです。
内容は、ニトロベンゼン入りのチョコレートによる毒殺事件を巡って6人の犯罪研究家が順番に推理を展開する物語です。推理小説の醍醐味が推理そのものであるなら、この本ほどそれを楽しめものはありません。
国内であった毒入りチョコレート事件といえば、「かい人21面相」が思い出します。1984年にあったグリコ・森永事件ですが、指名手配された「キツネ目の男」や脅迫状等、まるで推理小説を読んでいるような派手な事件でした。
調べると、他にもチョコレートに毒を入れた事件がありました。1977年東京駅で落し物として拾得された江崎グリコのチョコレートから青酸ソーダが検出され、同日神田駅で同じく落し物のチョコレートを食べた会社員が救急車で運ばれました。1988年には徳島県の幼稚園で青酸カリが塗られたチョコレートが見つかったとか。
優雅で甘いチョコレートの魅力がおどろおどろしい殺人事件のツールに使われるのは、フィクションでも現実でも一緒。
いくら好きでも、落し物のチョコレートを食べるのは止しましょう。
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